はじめに

宇都宮大学大学院工学研究科先端光工学専攻で超高出力超短パルスレーザーによって励起したプラズマからのテラヘルツ電磁波放射やレーザー航跡場電子加速の研究を行っています.

研究内容

近年のレーザー技術の進歩で,超高強度,超短パルスレーザーが,実験室のテーブルに乗る程度の大きさになりました.このようなレーザー光を集光すると,そこでの電場は水素原子核の内部の電場より大きくなります.これを固体や気体に照射すると,それらは瞬時にプラズマ化することができます (プラズマとは,原子や分子から電子が飛び出して,プラスの電気を持ったイオンとマイナスの電気を持った電子がバラバラになって存在している状態です.).

この生成されたプラズマを用いることによって,今まで遭遇しなかったような様々な物理現象が起こり、それらを工学的に応用することが期待されています. 研究に用いているレーザー光は,最高出力 1.0 TW (テラワット=1x1012W),パルス幅 100 fs (フェムト秒=1x10-15 秒),波長 800 nm です.この出力は,日本国内の瞬時電力を上回っています.また,100 fs という時間は,一秒間に地球を 7 周半進む光をもってしても,30 ミクロンしか進むことの出来ない時間です.つまり,30 ミクロンの薄い円盤が光の速度で飛んでいるとイメージすればいいでしょう.

コーン状電磁波発生実験

現在の進行中の研究テーマは,レーザーとプラズマとの相互作用による超短パルス電磁波の発生や電磁波の周波数上昇実験です.

レーザーを薄いガス中を伝播させると、レーザーは周囲のガスをプラズマ化しながら進行します.プラズマには電流が流れ,電磁波が発生します.ところがこのとき発生する電磁波には非常に面白い性質があります.レーザーが集光したところを中心としてコーン状の分布をもった電磁波が放射されます.また、高い周波数ほど角度が浅くなる傾向があります.

実験配置図

電磁波の放射パターン

電磁波の放射パターン

プラズマ・フィラメントの形成実験

太陽光線をレンズで集め、その焦点に紙を置くと燃えることは誰でも知っています.光はレンズで集光されることは常識でしょう.そして、集光した光はその後、広がっていくことも小学校で習いました.超短パルスレーザーをある条件で集光すると、レーザーの光が細いまま遠くまで伝搬することが可能です.これをプラズマフィラメントといいます.下のアニメーション(実験結果)は、レーザーが右から左に向かって直径が 500 ミクロンぐらいのまま広がらずに伝搬している様子を示しています.

レーザー航跡場加速による電子ビーム生成

高出力レーザーをガスに集光するとプラズマができます.プラズマは振動媒質であり,刺激を与えることでプラズマ中に波を立てることができます.ある一定の条件化でプラズマを刺激し続けることにより,波は成長し閾値を超えると破砕します.この波と破砕を利用しプラズマ中の電子を加速する技術をレーザー航跡場加速と呼びます.従来の加速器では達成できない加速勾配を実験室の中で作ることができ,次世代の加速器技術として期待されています.

本研究室では安定に電子を発生・加速させる技術を確立するため,プラズマ中の物理を明らかにすることや,プラズマ生成用のレーザー装置,実験装置を安定化させるための制御技術を研究しています.

レーザー航跡場加速の概念図

2次元シミュレーションコードによるプラズマ物理現象の理解

上で述べたような現象がどうして発生するのか、非常に興味あることだと思いませんか?現象の説明を実験結果だけで説明することもできますが、なかなか実験での計測結果から説明することは困難なことです.これらの現象を理解するために強力なツールとなるのが、シミュレーションコードです.我々の研究室では、2次元粒子コードと呼ばれるシミュレーションコードによって、レーザーが気体中に入り、集光するにしたがって、気体を電離し、プラズマを作り、レーザー光周辺の電子がどのように動いて、それに伴って電場や磁場がどのように発生し、・・・という様子を計算し、物理現象の再現を行い、何がこの放射の発生源なのかを探っています.

なお、使用しているシミュレーションコードは、共同研究を行っている大阪大学の千徳靖彦教授の提供によるものです.

以下のリンクをクリックすると別ウィンドーで計算のイメージを見ることができます.

【動画】レーザーの伝搬シミュレーション


【動画】レーザー周辺の電場シミュレーション

研究・教育方針

電磁気学や力学などの物理を基礎とするプラズマ物理を理解しながら、レーザープラズマ相互作用によって起きる現象(電磁波の発生など)の理解を目指します.そのためには、物理の理解だけでなく数学が必要ですので、基礎から勉強をしてもらいます.表面的な言葉や公式を暗記して理解したと思っている(勘違いしている)今までの自分の勉強が浅かったことを認識し、卒業までには論理的に考え、話せ、書ける人間になることを目標とします.